前章では、年金制度の概要や確定拠出年金のしくみについて学びました。本章では、確定拠出年金制度の重要なプロセスである「運用」を行うために必要な「投資」についての基礎を理解しましょう。
年金資産の運用には、2つの考え方があります。安全性重視で減らさないことが目的の「貯蓄」と、収益性重視で増やすことが目的の「投資」です。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。
ここで初めて出てきた「リスク」と「リターン」という概念は、年金資産を運用するうえでとても重要ですので、しっかり理解しましょう。「リターン」とは運用により得られる利益(または損失)のことで、「リスク」とは値動きのブレ幅のことをいいます。リスクを抑えようとすればリターンは小さくなり、高いリターンを目指せば大きなリスクを覚悟しなければなりません。
リスクとリターンの大きさはそれぞれに異なります。次の図のように、預金はマイナスになることはありませんがリターンはわずかです。債券は値動きのブレ幅が小さく、株式は値動きのブレ幅が大きいことがわかります。
※ 債券、株式は日本債券、日本株式。平均値は、幾何平均により算出。
リスク・リターンの大きさは、「預金など < 債券 < 株式」となります。預金、債券、株式という言葉は普段あまり意識せず使っているかもしれませんが、それらの特徴などは以下を参考にしてください。
債券や株式など「リスクのある商品」に投資するのは、「難しそう」「怖い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、リスクと付き合いながら安定したリターンを得るための方法があります。それが、分散投資と長期投資の考え方です。
投資の基本は「分散投資」です。投資の格言で「卵を1つのカゴに盛るな」と言われるように、資金を1点に集中して投資するのではなく、複数に分散して投資することにより、リスクを抑えることができます。分散投資には、主に4つの方法があります。
例えば株式投資では1つの銘柄だけに投資した場合、その会社の業績悪化や事故などで大きく株価が下がってしまうことがありますが、複数の銘柄に分散していれば1つの銘柄の値動きによる影響は軽減されます。
※ 投資信託は一般に多数の銘柄に分散投資しています。
値動きの異なる複数の資産(例えば、預金や債券、株式など)を組み合わせることによって、1つの資産に投資する場合よりも、全体的にリスクを低く抑えることが可能になります。
外国の資産を組み入れることにより、日本国内の資産のみに投資する場合よりも、リスクを抑えることが可能になります。また、外国の資産のなかでも複数の異なる国(通貨)の資産に分散して投資することもできます。
値動きのある商品に投資する場合、どのタイミングで行うかによってリターンは大きく変わってきますが、投資するタイミングを分けることにより、一度にまとめて投資する場合よりもリスクを抑えることが可能になります。
分散投資の効果を、実績をもとにしたグラフで見てみると、個別の資産に投資するのに比べて、リスクを抑えながら安定したリターンを実現できていることが分かります。
※ 2013年3月末の各市場の指数を100に換算して表示しています。
皆さまには、銘柄・資産・地域の分散が行えるように商品が用意されています
※ すべてのプランに上記のすべての商品が用意されているわけではありません。
毎月決まった金額を同じ商品に投資する場合、価格が高いときは少ない口数を購入し、価格が低いときは多くの口数を購入することにより、結果的に平均購入単価を引き下げることになります。
これを「ドルコスト平均法」の効果といいます。
皆さまは毎月の掛金で商品を買うことになり、自動的に時間分散が行えます
「投資は難しい」と感じる理由として「いつ買って、いつ売ればよいのか自分にはわからない」という方も多いと思います。しかし、確定拠出年金は短期の売買で高いリターンを狙うのが目的ではなく、老後資金としてじっくりと育てる「長期投資」が基本です。リスクの大きな運用商品も長期で保有することにより、安定したリターンが期待できます。これは、長期投資には主に次の3つの効果があるからです。
例えば、日本の株式を1年間保有した場合、資産がほぼ2倍に増えた年もあれば、逆に資産が半分近くに減ってしまった年もあります。これは、リスクの大きな投資といえます。ただし、保有期間が5年・10年…と長くなればその間の年平均利回りのバラツキが小さくなり、安定した投資効果を上げることが期待できます。つまり、リスクが低減しリターンが平準化されます。
※ 1949年から2010年の間の任意の○年間(保有年数)日本の株式に投資した場合(TOPIXにて算出)の、その保有期間中の最高のリターンを得られたケースと最低のリターンとなったケースを示しています。
複利効果とは、運用で得た収益を同じ資産に再び投資をすることで、いわば利息が利息を生んでふくらんでいく効果のことです。期間が長くなればなるほど、この複利効果が高まります。
短期的な売買を抑えることで、各種手数料や取引税などの取引にかかるコストを抑えるこができます。
下図は「資産と地域の分散」で示したグラフを期間30年に延ばしたものです。それぞれの資産や4等分投資は長期で安定したリターンを実現していることがわかります。
※ 1993年3月末の各市場の指数を100に換算して表示しています。
※口座番号の確認方法は >こちらをご参照ください。